日本ゲーム大賞の「ゲームデザイナーズ大賞」が、2026年で終わります。9月15日にヒューリックホール東京で開かれた年間作品部門の授賞式で、審査員長の桜井政博氏が理由を語りました。
ゲームデザイナーズ大賞が17回で終了。桜井政博氏という個人に預けた賞は、なぜ引き継げなかったか

最後の受賞作は『文字遊戯』です。「我」という一文字を操り、文字だけでできた世界を進む、台湾のTeam9によるアドベンチャーゲームです。
終了そのものは、CESAが9月8日に出した資料で先に予告されていました。17回目を迎える今年度の発表を最後に役割を終える、という書き方です。壇上で明かされたのは、その理由のほうでした。
売上でも投票でもない、ただ一つの部門
ゲームデザイナーズ大賞が新設されたのは2010年です。トップクリエイター自らがプロの視点で選考する賞として作られました。
CESAは目的を、高い創造性を持ち、ゲームの歴史にその名を刻むべき斬新な作品を評価することだと説明しています。売れた作品を讃える賞ではない、と最初から宣言されていたわけです。
日本ゲーム大賞には、ほかにも部門があります。年間作品部門は選考委員会の審査に一般投票と販売本数を組み合わせて決まります。フューチャー部門は、東京ゲームショウの会場での一般投票です。
この2つには、数で決まる仕組みがあります。投票する人が毎年入れ替わっても、集計の手順のほうは残ります。担当者が代わっても、賞は同じ形で続けられます。
ゲームデザイナーズ大賞だけが違いました。一般投票も売上も介さず、審査員の合議だけで決める方式です。2026年の審査員は桜井氏を含めて11人でした。
顔ぶれを見ると性格がよく分かります。飯田和敏氏、イシイジロウ氏、上田文人氏、神谷英樹氏、小高和剛氏、須田剛一氏、トビー・フォックス氏、外山圭一郎氏、三上真司氏、ヨコオタロウ氏。自分の手で変わったものを作ってきた人たちです。
「私の代わりがいなかったんですね」
授賞式での桜井氏の説明は、言い訳のない短いものでした。代わりがいなかった、本当にただそれだけだ、という趣旨です。式の様子は電ファミニコゲーマーが現地で伝えています。
後継者は探していたと述べています。何年か探したけれども見つからなかった、という経緯でした。急に終わったのではなく、続ける方法を探した末の結論です。
そのうえで、業界そのものへの言葉も残しています。
独創性みたいなものを失った業界というのはゆっくりと死んでいくだけなんですね。
独創性が必ずしも売上に結びつかないことは、本人も認めたうえでの発言でした。それでも新しさに目を向けてほしい、と会場に呼びかけています。
この授賞式は、東京ゲームショウの開幕2日前に「前々夜祭」として開かれるのが恒例です。今年のTGSは30周年で会期が史上初の5日間になりました。規模が広がっていく行事の隣で、独創性を選ぶ部門のほうが先に畳まれます。
審査基準が、その人の中にしかなかった
なぜ代わりが立たなかったのか。賞の趣旨に戻ると、輪郭が見えてきます。
斬新さを評価する賞には、斬新さを作った側の説得力が要ります。売上や票数という共通の物差しを使わないからです。代わりに賞を支えるのは、「この人が選んだのなら」という納得だけになります。
桜井氏が初めてディレクションを担当したのは、1992年の『星のカービィ』です。1999年からは『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズを率いてきました。
敵を吸い込んで吐き出すだけで進む遊びは、それまでの文法にありませんでした。体力ではなく蓄積したダメージで吹き飛びやすくなる対戦も同じです。審査基準を言葉で定義する代わりに、基準そのものを実作で示してきた人でした。
だから引き継ぎが難しくなります。手順書があれば渡せますが、渡すべきものが実績と判断そのものだったとき、後任は同じ重みを持てません。
歴代の受賞作を並べると、その判断の一貫性が見えます。
| 年 | 受賞作 | どこが新しかったか |
|---|---|---|
| 2010 | HEAVY RAIN -心の軋むとき- | 失敗しても止まらない群像劇 |
| 2011 | ヒラメキパズル マックスウェルの不思議なノート | 書いた単語が実体になる |
| 2012 | 風ノ旅ビト | 言葉を使わず他人と旅する |
| 2013 | The Unfinished Swan | 絵の具を投げて白い世界を描く |
| 2014 | ブラザーズ 2人の息子の物語 | 1人で兄弟2人を同時に操る |
| 2015 | Ingress | 現実の街を陣取りの盤にする |
| 2016 | Life Is Strange | 時間を巻き戻して選び直す |
| 2017 | INSIDE | 説明を一切せずに進ませる |
| 2018 | Gorogoa | 絵を重ねて場面をつなぐ |
| 2019 | ASTRO BOT:RESCUE MISSION | 頭を動かして隠れた仲間を探す |
| 2020 | Baba Is You | ルールの文を書き換えて解く |
| 2021 | マリオカート ライブ ホームサーキット | 部屋にコースを敷いて走らせる |
| 2022 | Inscryption | カードゲームの外側が崩れる |
| 2023 | RPGタイム!〜ライトの伝説〜 | ノートに描かれたRPGを遊ぶ |
| 2024 | Viewfinder | 撮った写真を置いて立体にする |
| 2025 | INDIKA | 仕組みではなく世界観と語りで押し切る |
| 2026 | 文字遊戯 | 世界のすべてを文字で作る |
売れ筋のヒット作が並ぶ年は、多くありませんでした。規模ではなく、遊びの仕組みか世界観のどちらかで新しさを示した作品が続いています。
この並びは、17回にわたって同じ物差しが使われた証拠でもあります。人に依存した仕組みは、続く間はぶれません。代わりが立たないという弱さと、それは表裏です。
桜井氏は、知識を残す試み自体は続けてきました。YouTubeチャンネル「桜井政博のゲーム作るには」は、2022年8月から2024年10月までの全260回です。
作り方は260本分を譲れても、選ぶ役だけは譲れませんでした。
けん玉のひとこと
賞がなくなるのは、素直に寂しいです。ただ、基準を薄めたまま続けるより、終わらせるほうが誠実なところ。
審査員長を名前だけ別の人に替えて存続させる道もあったはずです。それをやらなかったから、17作の並びは最後まで意味を持ったまま残りました。畳み方まで含めて、この賞らしい終わり方だったところ。
では誰なら引き継げたのか。私も代わりの名前を、すぐには挙げられません。その事実そのものが、答えでもあります。
それに、なくなったのは賞であって、独創を見つけて名前を呼ぶ役目のほうではありません。この賞が見つけていたはずの作品は、来年も出てきます。誰がその1本を名指しするのかが、まだ決まっていないだけなんですよね。
売上の順位に出てこない作品を掘り当てて人に薦めるのは、遊ぶ側にもできることです。桜井氏が17年かけて拾い上げたのも、結局はその引っかかりのほうでした。
表の名前を眺めて、引っかかった1本があったなら、そこが入口です。17作分の目利きをそのまま自分の積みゲーに変えてしまうのが、この賞のいちばん贅沢な受け取り方のはず。




