1996年2月の終わり、東京郊外で開かれた AOU ショーで、セガは次の基板を人前に出しました。MODEL3 です。『バーチャファイター3』も披露されましたが、遊べたのはごく限られた人で、選べる人物も2人だけだったと伝えられています。
【連載 第4回】セガ MODEL3 は何を変えたのか。Real3D と組んだ1996年の基板を数字で読む

開発を率いたのは、セガ AM2研の鈴木裕さんです。前の基板の中身はセガ MODEL2 とは何だったのかにまとめました。今回は作品ではなく、MODEL3 という基板そのものを数字から見ていきます。
早すぎる公開と、遅れた完成
この公開は、業界の予想より早いものでした。海外誌の Edge と Next Generation は、9月の JAMMA ショーでの公開が予想されていたと書いています。
Next Generation 誌は、公開時点で基板そのものはまだ完成していなかったとも伝えています。仕上がる前の基板を、先に見せたことになります。
一方で、ここまでの道のりは順調ではありませんでした。同誌の1995年11月号は、MODEL3 がもともと1995年の作品に載る予定だったと報じています。
遅れのために、『インディ500』は MODEL2 の側へ回されたそうです。前の回の表で 2A の作品に入っていた1本です。早すぎた公開と遅れた完成が、同じ基板の上で重なっていました。
公開時に示された仕様
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| CPU | PowerPC 603e |
| 描画チップ | ロッキード・マーティンの R3D/PRO-1000 を2基 |
| 描画性能 | 1基で毎秒約75万、2基で毎秒100万ポリゴン超 |
| 性能の条件 | テクスチャ、シェーディング、フォグ、アンチエイリアスをかけた状態 |
| 描画機能 | 24bit カラーのテクスチャ、トライリニア補間、フォグ、32段階の半透明 |
| 画面 | 496×384、640×480 |
| 音 | 68EC000 と、セガサターンと同じ SCSP を2基 |
表は、公開直後の Edge 1996年4月号と Next Generation 同5月号に載った値です。2誌の内容はおおむね一致しています。CPU のクロックは、どちらの仕様表にも載っていません。
ただし、どちらも未完成の基板を見て書かれた記事です。ここにある数字が、稼働した基板の最終的な仕様と同じだとは限りません。
MODEL2 と並べて分かること
MODEL2 は i960 を25MHzで回し、3D の計算は専用のチップを6基並べて受け持たせていました。描画は毎秒約30万ポリゴン(テクスチャ付き)とされます。
MODEL3 について、2誌はどちらも「MODEL2 の3倍を超えるポリゴン」と書いています。Next Generation 誌は、MODEL1 が18万、MODEL2 が30万、MODEL3 が約100万と並べました。
ここで見ておきたいのは、数字に付いた条件です。MODEL3 の値は、テクスチャに加え、陰影とフォグ、ふちのギザギザを消す処理までかけた状態のものとされています。
一方、MODEL2 の30万は「テクスチャ付き」としか伝わっていません。条件がそろっていないので、3倍という倍率は目安にとどまります。
それより確かなのは、仕様表に並んだ機能の中身です。24bit カラーのテクスチャ、トライリニア補間、フォグ、32段階の半透明。平行光源のほかにスポットライトを4つ置けることも、Edge 誌の表に載っています。
ポリゴンの数を増やすだけでなく、面に光を当て、霧をかけ、透かして重ねる。数字の伸びより、ひとつの画面に重ねられる処理の種類が目立つ仕様です。
画面は、MODEL2 と同じ 496×384 に加えて、640×480 も表に載っています。ただ、640×480 をどの作品が使ったのかは、公開時の誌面からは分かりません。
描画チップは Real3D の Pro-1000
前の回で触れたとおり、MODEL3 には Real3D の Pro-1000 が載っています。1996年の誌面では、これがロッキード・マーティンの R3D/PRO-1000 の名で紹介されていました。
MODEL2 から続く、軍用シミュレーターの技術を持つ部門との協業です。描画の重い仕事は2基のチップが分担し、CPU の負担を減らす作りだと Next Generation 誌は説明しています。
その Real3D は長く続きませんでした。英国の IT ニュースサイト The Register の1999年10月の記事が、その終わりを伝えています。
記事によれば、親会社のロッキード・マーティンが同社を閉じ、出資していた Intel が特許を買い取りました。軍用シミュレーターから始まった技術の特許が、最後は半導体メーカーの手に渡ったことになります。
Step 1.0 から 2.1 まで
MODEL3 は稼働後も中身を改めながら使われ、その段階は Step 1.0、1.5、2.0、2.1 と呼ばれています。違いとしてよく挙げられるのが、CPU のクロックです。
| Step | CPU のクロック | 載った作品の例 |
|---|---|---|
| 1.0 | 66MHz | バーチャファイター3 |
| 1.5 | 100MHz | スカッドレース |
| 2.0 | 166MHz | セガラリー2 |
| 2.1 | 166MHz | デイトナUSA2 |
この表は、セガが公表した値ではありません。後年にまとめられた資料に広く載っている数字で、出どころを一次資料までたどれていません。
それでも、流れは読み取れます。MODEL2 の i960 は25MHzでした。MODEL3 は66MHzで始まり、最後は166MHzまで上がったとされます。
もっとも、この倍率がそのまま速さの差になるわけではありません。CPU の設計がまるで違ううえ、3D の重い計算は描画チップの側が受け持っているからです。
2.0 と 2.1 はクロックが同じとされ、何が違うのかは公表された資料から読み取れません。MODEL2 は 2A・2B・2C で、3D の計算を受け持つチップごと入れ替えていました。それとは改め方の性格も違って見えます。
数字だけでは言えないこと
ここまでで分かるのは、公開時の誌面に載った仕様と、後年まとめられた Step ごとのクロックです。逆に、数字があっても言えないこと、資料がなくて言えないことがあります。
ひとつは、家庭用機との比較です。ポリゴンの数え方は、テクスチャの有無や陰影の付け方の条件が、メーカーや機種ごとにそろっていません。PlayStation やセガサターンの公称値と並べても、差の大きさは測れません。
もうひとつは値段です。MODEL3 の基板がいくらだったのかは、確かめた範囲に資料がありませんでした。どれほど高価だったのかは言えません。稼働した台数も、MODEL3 だけの数を示す資料は見つかっていません。
MODEL3 の作品を今遊ぶには
MODEL2 には、PS3 と Xbox 360 向けの「MODEL 2 COLLECTION」がありました。MODEL3 の作品を、家庭用機向けに基板の名前でまとめて出し直した例は、確かめた範囲では見当たりません。
家庭用へ渡った作品は、1本ずつ移った先も形も違います。今どこで遊べるのかは、次回から作品ごとに確かめていきます。
けん玉のひとこと
MODEL3 の仕様表で目を引くのは、ポリゴン数より、その横に付いた条件のほうだと思っています。テクスチャ、陰影、霧、ふちの処理。面の数を競うより、その面を光と空気の中に置こうとしていたんですよね。
意外だったのは、音源がセガサターンと同じ SCSP だったところ。画面は家庭用の先にいる基板なのに、耳の側にはすでに家と同じ部品が入っていたことになります。
遅れていた基板を、仕上がる前に人前へ出したところも面白いです。理由は誌面からは分かりませんが、その場で遊べる形まで持っていったのは記録に残る事実。
次回はこの基板の第1弾、『バーチャファイター3』です。仕様表の数字が画面で何になったのか、一緒に見ていけたらうれしいですね。
※ MODEL3 の Step ごとのクロックと作品の割り当ては一次情報を確認しきれていないため、誤りがあればお問い合わせからお知らせください。
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