フランスのゲーム会社 DON’T NOD が、2026年4月の通期決算に一つの日付を書きました。2027年1月31日です。
DON'T NOD が決算に書いた「2027年1月31日」。資金が減り続ける中堅スタジオが1本の失敗を吸収できない理由

それ以降も事業を続けられるかどうかに重大な不確実性がある、と自社で記しています。『Life is Strange』を生んだスタジオです。
売上は4倍。それでも現金は半分になった
2025年12月期の数字を並べます。売上高は約1,370万ユーロでした。前の年が約330万ユーロですから、4倍を超えています。
純損失は約3,570万ユーロ。前年の約6,430万ユーロからは縮みました。売上が伸びて赤字が減っている。ここだけを見れば、回復の途中に見えます。
問題は手元の現金です。2024年末に約3,290万ユーロあったものが、2025年末には約1,540万ユーロになりました。1ユーロ170円で計算すれば、約26億円です。1年で半分以下になりました。
自己資本も約5,570万ユーロから約1,990万ユーロへ落ちています。
決算発表には、外部からの資金調達ができるかどうかに継続がかかっている、という趣旨の記述があります。監査人も継続前提に関する注記を付けたうえで意見を出す予定だとされています。
同じペースで減れば、期限の月に現金が尽きる
2026年9月4日、会社は上半期の状況と組織再編を発表しました。上半期の売上高は約610万ユーロです。前の年の通期が約1,370万ユーロですから、半分に届くかどうかのペースになります。
現金は6月末で約980万ユーロ、7月末で約800万ユーロまで減っていました。2025年末の約1,540万ユーロから、7か月で740万ユーロ。月あたり約106万ユーロずつ減った計算です。
このペースが変わらないとすると、8月から2027年1月末までの6か月で約630万ユーロ。期限の日に残るのは170万ユーロ前後になります。決算が書いた「2027年1月31日」は、試算上、手元の余力がほぼ尽きる時期と重なります。
同じ発表で、フランス国内の制作体制をパリに一本化する方針も示されました。最大90人の削減の可能性にも触れています。
削減は初めてではありません。2025年の初めにも69人の削減を含む計画が出て、労働組合との争議を経て2月に合意しています。2年続けての縮小です。
自社で売るという判断が、そのまま重さになった
DON’T NOD は2008年にパリで設立され、2018年に Euronext Growth Paris へ上場しました。転機は2019年です。『Twin Mirror』の出版権を自社で取り戻し、以後は自分で売る道を選びました。
自社パブリッシングは、当たったときの取り分が大きくなります。代わりに、外れたときの損失も全部を自分で被ります。
2023年10月には『Jusant』を自社で出しました。2024年2月の『Banishers: Ghosts of New Eden』は Focus Entertainment からです。どちらも評価の高い作品でした。
それでも2024年上半期の決算では、2作について期待を大きく下回ったとして2,400万ユーロの減損を計上しています。
2025年に出した『Lost Records: Bloom & Rage』は「予測どおりの水準」とされました。販売本数は公表されていません。当てたとは書かれていない、ということです。
もう一つあります。『Life is Strange』の権利はスクウェア・エニックスにあり、現在のシリーズを作っているのは Deck Nine です。会社の名前を世界に知らせた作品が、会社の売上には戻ってきません。
同じフランスでは、NACON が2026年3月に司法再建手続きに入りました。傘下の Spiders などは4月に清算命令を受けています。1社だけの不調ではありません。
けん玉の見方
この会社に足りなかったのは腕ではないと思います。評価される作品は出し続けていました。足りなかったのは、外した1本を吸収する体力のほうです。
大手なら、1本の不振を他のラインで薄められます。個人や小規模なら、そもそも1本にかける金額が小さい。中堅はその中間にいます。人を抱えたまま、数年に1本の大作を出す規模です。外したときに一番効くのは、この位置でしょう。
自社で売る選択は、その振れ幅を自分で全部引き受けるということでした。判断そのものが間違いだったとは思いません。ただ、2本続けて外したときの逃げ場は残っていませんでした。
Rebel Wolves の100万本は、大手の販売網と資金を先に揃えてから出した例です。作る力があることと、外したときに立っていられることは別の話だと、この2社を並べると分かります。
IP を手放していたことも効いています。Scalebound の権利が Microsoft にある話と同じです。誰が権利を持っているかは、あとになって効いてきます。
期限までは5か月を切っています。開発中プロジェクトの共同制作を交渉中だとも書かれています。手が尽きたわけではありません。
ただ、次の1本の結果を見てから動ける会社ではなくなりました。見るべきは新作の発表ではなく、共同制作の相手が年内に決まるかどうかです。
12月末の現金が300万ユーロ前後なら、上の計算どおりです。500万ユーロを超えて残っていれば、どこかで減り方が鈍ったことになります。
遊ぶ側としては、続編や追加要素が来る前提で買う会社ではなくなった、と思っておくのが正確です。今出ている作品は、出ている形で完結したものとして選べば足ります。
最後に、数字ではない話をします。けん玉は『Life is Strange』を2作品遊びました。どちらも好きな作品です。心の動きをゆっくり追っていく作りに、当時かなり引き込まれました。その会社がこのまま消えてしまうのは、素直に悲しいです。共同制作の相手でも、出資でもかまいません。救いの手が出てくることを願っています。
※ 7月末時点の現金残高と監査人の注記の内容は一次情報を確認しきれていないため、誤りがあればお問い合わせからお知らせください。




