『鉄拳』を長く率いた原田勝弘氏が、SNKの傘下で新しいスタジオの代表になりました。英メディアのVGCが9月15日に公開したインタビューで、本人がその理由の一端を語っています。
『鉄拳』の原田勝弘氏がSNKで新スタジオ。「経営陣は自社のゲームを遊ばない」という指摘から読む

聞き手はVGCのAndy Robinson氏、同席したのはSNKの最高出版責任者であるOzan Kocoglu氏です。二人が掲げた目標は、日本のゲームの黄金期を取り戻すことでした。
ただ、話の中でいちばん引っかかったのは目標のほうではありません。原田氏が日本の大手の経営層について口にした、ひとつの指摘のほうです。
『鉄拳』を率いた人が、まだ何も決まっていない会社を作った
原田氏は1994年の『鉄拳』1作目から開発に加わり、1997年の『鉄拳3』でディレクターになりました。以後は鉄拳プロジェクトのチーフディレクターとして、シリーズを率いてきた人です。
シリーズの累計は世界で5,700万本以上、『鉄拳8』は2024年1月の発売から1か月で200万本を超えました。いずれもバンダイナムコエンターテインメントの公表値で、累計のほうは集計時点が示されていません。
その原田氏がバンダイナムコエンターテインメントを退社したのは、2025年12月末でした。本人と公式アカウントが、同年12月8日にXで発表しています。
新会社「VS Studio SNK」の設立は2026年5月1日です。代表取締役CEOは原田氏自身で、SNKが出資し連結子会社として迎えました。事業内容はゲームソフトの企画・開発・運営です。
SNKの発表には、理念として「伝統に挑み、極限を創る」が掲げられています。環境の自由度と余白を重んじる、という説明も添えられていました。
SNKの小田泰之氏は、原田氏を「長年の友人であり、また良きライバル」と紹介しました。そのうえで「正直、まだ何も決まってはいません」とも述べています。作るタイトルは、いまも公表されていません。
「経営陣は自社のゲームを遊ばない」
VGCで原田氏が語ったのは、日本の大手開発会社の経営層についてです。自社で開発中のゲームをまったく遊ばない、という指摘でした。
原田氏によれば、経営層は損益計算書や損益分岐点の会議には出ます。しかし開発中のビルドを触り、フィードバックを返すことはありません。プロトタイプの段階でも同じだ、という話です。
社名は挙げていません。ただ原田氏は、SNKグループはその例外だと続けました。新しいスタジオを任せる相手にSNKを選んだ理由は、ここに置かれています。
同席したKocoglu氏は、VS Studio SNKについて業界全体の顔を変える可能性があると評しました。一方で自社の『餓狼伝説 City of the Wolves』は、発売時点の規模がファンの期待に届いていなかったと認めています。
同作は2025年4月に出たシリーズの新作です。自社の看板作の弱さを、移ってきたばかりの開発者の前で口にしています。この距離の近さは、原田氏の言う「例外」と地続きに見えます。
開発者が経営に入ること自体は、珍しくない
ただし、日本の大手に開発出身の役員がいないわけではありません。
任天堂の宮本茂氏は代表取締役フェロー、カプコンの辻本春弘氏は代表取締役社長執行役員COOです。スクウェア・エニックスの吉田直樹氏は執行役員で、クリエイティブスタジオ3のスタジオヘッドを兼ねています。
つまり原田氏の指摘は、肩書きの話ではありません。経営を預かる人が、作りかけのゲームを実際に触るかどうかの話です。
会社の大きさも効いています。部署がいくつもあり、売上が何百億円もある会社で、役員が一本ごとのビルドに時間を割くのは簡単ではありません。数字で判断する会議が増えるのは、自然な流れでもあります。
原田氏が選んだのは、その構造から距離を取れる大きさの会社を、自分の名前で立てることでした。
SNK自身、権利者も開発元も何度も入れ替わってきた会社です。その経緯は『メタルスラッグ』30周年の記事で整理しました。
株の大半を握るのは、サウジアラビアのElectronic Gaming Development Companyです。96.18%という比率は、2022年に報じられた数字にあたります。
資金の出どころは大きく、新しいスタジオに回す余力もあります。ただ、判断が実際に速く通るかどうかは外からは見えません。そこは作品が出てくるまで確かめようのない部分です。
けん玉のひとこと
「黄金期を取り戻す」という言い方には、正直ひっかかるところもあります。90年代のアーケードが強かった頃をそのまま持ってきても、いまの人が待っているものとは違うはず。
ただ原田氏が言っているのは、作品の中身より作り方のほうなんですよね。経営を預かる人が現物を触る、という一点。これは昔に戻る話ではなく、いまでも効く話だと思います。
そこまで売ったシリーズを率いた人が、まだ何も決まっていない会社の代表に座っているところ。選び方としては、ずいぶん真っ直ぐなんですよね。
作品が出るのはまだ先です。それまでに見ていたいのは、次の発表を誰の名前で出すか。スタジオ側の告知として出るのか、SNK本体の発表に吸収されるのか。ここに任せ方が出るはずです。
最初のタイトルが何になるのか、いまのうちに予想しながら待つのも悪くないはずです。
※ SNKの株主構成の比率は一次情報を確認しきれていないため、誤りがあればお問い合わせからお知らせください。




