コラム

プレイステーションの父・久夛良木健、ゲームの作り方は初代PSから変わっていないと指摘

プレイステーションの父・久夛良木健、ゲームの作り方は初代PSから変わっていないと指摘

「プレイステーションの父」と呼ばれる人が、ゲームの作り方は変わっていないと語ったそうです。褒め言葉ではありません。

場所は大学でした。2026年9月29日、電気通信大学の調布キャンパスで開かれたセレモニーの壇上です。

コンテンツの組み立て方は初代PSから変わっていない

電気通信大学は2026年1月、「エンタテインメント創造研究教育センター(CEREC)」を発足させました。ゲームを中心にしたエンタテインメントを、工学と理学の側から研究する拠点です。

9月29日のオープニングセレモニーには、特別客員教授の久夛良木健氏が登壇しました。村松正和学長とのパネルディスカッションで、題は「大学とゲーム業界の本音・これからの大学に期待すること」です。

その場で久夛良木氏は、ゲームソフトの産業規模が約30兆円に達したことを挙げています。コンテンツ産業で最大の領域だという指摘です。

一方で、コンテンツの組み立て方は初代プレイステーションの時代から変わっていない、とも語ったと伝えられています。規模もビジュアルも大きく進んだのに、骨組みは当時のままだという見立てです。

久夛良木氏は1993年設立のソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)で開発を率いました。1999年に社長、2006年に会長となっています。

2007年に名誉会長となって経営から離れました。現在はアセントロボティクスの代表取締役CEOで、大学で教える立場にもあります。

30兆円の産業に向かって、その入り口を作った本人が、やり方は同じだと言う。言える立場の人は、そう多くありません。

PS1は「作り方を変える」側から出てきた

この指摘が重く響くのは、初代プレイステーション(PS1)そのものが、作り方を変えて生まれたハードだからです。できあがった業界の中から出てきたハードではありません。

もともとソニーは1989年10月から、任天堂とスーパーファミコン用のCD-ROM機の共同開発を進めていました。それが1991年6月、任天堂がフィリップスとの提携を発表したことで決裂します。

ソニーが単独でゲーム事業に進むと決めたのは、1992年6月24日の経営会議でした。PS1の発売は1994年12月3日、価格は39,800円(税別)です。

共同開発の相手を失ったあと、ソニーは自前でハードを出す側に回りました。前例をなぞる道は、そこで消えたことになります。同じセレモニーで久夛良木氏は、ゲーム業界は最先端技術を追う側ではなかったと述べています。

むしろ、世界最先端の技術を生み出す側だったという話です。追う相手がいない場所にいた、という自負だと受け取りました。

当時の売り場の混み合い方は、PlayStationとセガサターンが同時に出た1994年に書きました。新しい本体を出したのはソニーだけではありません。

変わったのは、まず規模のほうだった

では、この32年で何が変わったのか。いちばん見えやすいのは規模です。ソニーが公表している全世界の累計生産出荷台数を並べてみます。

PS1は1億240万台以上、PS2は1億6,000万台以上。どちらも2012年3月末時点の数字です。

PS3は8,740万台以上(2017年3月末時点)です。PS4は1億1,700万台以上(2022年6月末時点)。PS5は9,500万台以上で、2026年6月末時点の数字です。

1台のハードが1億台の規模で行き渡る市場になりました。作品1本に乗る金額のほうも、サイバーパンク2077の拡張1本に約94億円で見たとおり、桁から違っています。

一方で、企画を立て、人と年月を積み、完成品を売る。この手順の骨組みは1994年のままです。規模が1億台になっても、組み立て方は同じ場所に置かれている。久夛良木氏の指摘は、そう読めます。

好奇心とAIを並べた理由

話し相手は学生でした。だから、この話は懐古では終わりません。久夛良木氏が学生に向けて挙げた条件は「好奇心」です。絶対に外せないもの、という言い方でした。

AIについては「生まれたばかりの赤ん坊」と呼び、人とAIがともに成長することの大切さを語っています。人がAIに使われてはいけない、使いこなして自分の目的を進めるべきだという立場です。

教育する側への言葉もありました。「怖がらないこと、怖がらせないこと」。制限するより、試させるほうを選べという意味に受け取れます。

30兆円という数字と、赤ん坊という比喩が同じ講演に並んでいます。産業としては完成していて、道具としてはまだ何も決まっていない。その両方を同時に見ている人の話でした。

CEREC の設立趣旨そのものは、電気通信大学の発足のお知らせで読めます。大学と企業と社会をつなぐ拠点、という組み立てです。

けん玉のひとこと

「作り方は変わっていない」は、言われた側としては気持ちのいい話ではないはずです。ただ、32年変わらずに回ってきたのなら、それは強かったからでもあるんですよね。

企画を立てて人を集めて作る。この手順が1億台規模の市場を支えてきました。回り続けているものを、わざわざ壊す理由は普通ありません。

それでも気になるのは、遊ぶ側として「これは何だ」と思う瞬間のほう。PS1のころは、ポリゴンの人形が画面で動くだけで驚けました。

いまは驚きの単位が大きくなって、前の作品より綺麗、前の作品より広い、という比べ方になってきた感覚があります。悪いことではないのですが、方向がひとつに寄っているところ。

好奇心という言葉を学生に向けたのは、そこを見ているからだと思います。作り方を変える一手は、回収の計算が立つ現場より、怖がらずに試せる場所から出てくるはず。

とはいえ、今の作り方を否定したい話でもありません。磨き上げられた大作が年に何本も出る環境は、1994年には想像もできませんでした。変える人と磨く人の両方がいて、ようやく次が出てきます。

電気通信大学の拠点から何が出てくるのかは、数年後の答え合わせになります。「作り方が変わった」と言える1本に出会えたら、またここで一緒に驚きたいところです。

※ 久夛良木氏の現在の役職は一次情報を確認しきれていないため、誤りがあればお問い合わせからお知らせください。

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