新しいゲーム機を買う日、一緒にレジへ持っていく1本は決まって悩みます。本体だけ持ち帰っても、家では何も起きません。
【連載 第1回】『ドンキーコング』で始まったファミコン、同時発売の3本はすべてアーケード移植だった

その1本で、買ったばかりの機械の実力を測ることになります。あとから何十本と買い足しても、最初の1本の印象はなかなか消えません。
この連載では、各機種の同時発売ソフトを1回ずつたどります。初日に並んだ顔ぶれが、その機種の第一印象をどう決めたのか。1回目はファミリーコンピュータです。
初日に並んだのは3本だけ
ファミリーコンピュータの発売は1983年7月15日、価格は14,800円でした。このとき同時に発売されたソフトは3本です。
任天堂が公開しているファミコンの年表は、この3本をまとめて「アーケードゲームとして稼働していた」作品だと書いています。つまり初日の棚には、書き下ろしの新作が1本もありませんでした。
| 作品 | 開発 | ファミコン版の中身 |
|---|---|---|
| ドンキーコング | 任天堂開発第二部、SRD | 業務用の4面から1面を省いた3面構成 |
| ドンキーコングJR. | 任天堂開発第二部、SRD | 面は削られず。演出の一部を簡略化 |
| ポパイ | 任天堂開発第一部、岩崎技研工業 | 同名のコミックを原作にした作品 |
3本ともゲームセンターで遊べた作品です。それでもお金を出して家に置く理由は、はっきりしていました。あの筐体の遊びが、自分の部屋で動くことでした。
本体に付いてきたコントローラーの十字キーも、前年のゲーム&ウオッチから持ち込まれた部品です。新しい部分は、むしろ遊ぶ側の手元にありました。
業務用にどこまで近づけるかが勝負だった
1983年の遊びの基準は、ゲームセンターにありました。最新の映像も音も、まず業務用の筐体で出てきます。家庭用はそれを追いかける側でした。
だから新しいハードの実力は、業務用をどこまで再現できるかで測られます。画面の色数や、同時に動くキャラクターの数、音の厚みなど、どれも比べる相手がはっきりしています。
いまの「移植」は、元と同じ内容が入っていることが前提です。当時はそうではありませんでした。どこかが必ず減ります。減り方が小さいほど、その機械は強いという話になりました。
つまり同時発売の3本は、遊ぶためのソフトであると同時に、本体の性能表でもあったわけです。買った人は遊びながら、勝手に採点をしていたことになります。
消えた1面と、消えなかった1面
『ドンキーコング』の業務用は、4つの面を繰り返す構成です。ファミコン版には、そのうち1面が入っていません。ベルトコンベアが流れる50mの段です。
俗にセメント工場、あるいはパイ工場と呼ばれた面です。ファミコン版は3面構成に切り詰められました。看板にした作品で、いきなり中身が減っていたわけです。
ところが同じ日に出た『ドンキーコングJR.』は違いました。こちらは面が削られていません。搬送のデモや、水しぶき、卵が割れる演出などは簡略化されたり、なくなったりしています。
同じ会社が、同じ日に、同じ大きさのカセットで出した2本です。それでも減ったものの種類は違いました。何を残して何を捨てるかが、作品ごとに判断されていた様子がここに残っています。
面をひとつ丸ごと落としてでも遊びの骨格を優先するか、面は守って見た目の飾りを削るか。移植という仕事の手ざわりが、初日の2本にそのまま出ています。
3本のあとに続いたもの
1983年のファミコンは、この3本で止まりませんでした。9月には『マリオブラザーズ』が出ています。これも業務用からの移植でした。
任天堂の年表によれば、1983年に発売されたファミコンのソフトは計9タイトルです。最初の年は、ゲームセンターにあった遊びを家に運ぶ年だったと言えます。
家庭用のために書き下ろされた作品が看板になるのは、もう少し先の話です。それでもファミコンは、国内で1,935万台、全世界で6,191万台を売るところまで行きました。
今この3本を遊ぶ方法
ファミコン版の『ドンキーコング』と『ドンキーコングJR.』は、Nintendo Switch Online で遊べます。対象は「ファミリーコンピュータ」のラインアップです。加入していれば、追加の費用はかかりません。
削られる前の4面を確かめたいなら、アーケードアーカイブスがあります。Switch 向けの『ドンキーコング』は2018年6月15日の配信で838円です。『ドンキーコングJR.』は同じ年の12月21日の配信で、こちらも838円です。
どちらも業務用の内容がそのまま入っています。ベルトコンベアの面も、もちろんここにあります。
業務用の筐体と1983年のファミコン版で、何が減ったのかを並べて確かめられるのは、当時より今のほうがずっと簡単です。ついでに『ドンキーコング3』も2019年4月5日に838円で配信されています。
『ポパイ』は見当たりません。ファミコンのラインナップにも、アーケードアーカイブスにも入っていないようです。初日の3本のうち1本だけ、いま手を出せる先が見つからない状態になっています。
けん玉のひとこと
ファミコンの初日が全部アーケード移植だった、という事実は今見ると地味です。でも当時としては、これ以上ない説得力があったはず。
知っている遊びだからこそ、どこまで近いかが一目で分かるんですよね。まったくの新作を3本並べられても、比べる相手がいなければ性能は伝わりません。
『ドンキーコング』から1面消えていたことは、気づく人は気づいたと思います。それでも100円玉を入れずに何度でも挑めるほうが、はるかに大きかったところ。減点よりも、家で動いている事実のほうが勝ちます。
そして減らし方に作品ごとの判断があったのが、いま読み返すと面白いんですよね。容量が足りないという同じ条件から、片方は面を捨て、片方は飾りを捨てました。どちらも遊びの芯だけは残しています。
同時発売のソフトは、その機種の物差しになります。ファミコンはその1本目を、ゲームセンターからそのまま借りてきました。手堅いけれど、外しようのない選び方だったはず。
本体と一緒に買った1本を覚えている人は多いと思います。自分の1本目は何だったか、思い出しながら読んでもらえたらうれしいです。
※『ポパイ』の復刻状況は一次情報を確認しきれていないため、誤りがあればお問い合わせからお知らせください。
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