コラム

RE ENGINE の9年。カプコンがジャンル違いの新作を続けて出せた土台を公式資料で追う

RE ENGINE の9年。カプコンがジャンル違いの新作を続けて出せた土台を公式資料で追う

ここ数年、カプコンの新作をよく買っています。バイオハザードも、モンスターハンターも、ストリートファイターも。ジャンルはばらばらなのに、遊んでいると画面の質感や手触りに近いものを感じます。

理由のひとつは、たぶん道具が同じだからです。カプコンは2017年から、自社で作った RE ENGINE というゲームエンジンを主力タイトルに使ってきました。この9年で何が変わったのかを、公式に確認できる資料だけで並べてみます。

2017年に、道具を作り直した

カプコンは2005年ごろから MT FRAMEWORK という内製エンジンを使っていました。長く使われた分、開発チームごとに手を入れる範囲が広がります。CGWORLD の取材に応じた開発者によると、その結果として互換性や移植性が落ちていったそうです。

そこで新しく作られたのが RE ENGINE です。『バイオハザード7 レジデント イービル』の企画と並行して開発され、2016年6月に作品とともに姿を見せました。発売は2017年1月26日です。

『7』は、シリーズがアクション寄りからホラーへ戻した作品でもあります。その振れ幅はバイオハザード30周年の記事で発売順に整理しました。

設計の考え方も変えています。すべての機能をひとつの土台に載せる形から、必要な部品を組み合わせる形へ。この違いが、あとの作品の並びに効いてきます。

効果は「速く直せること」に出た

RE ENGINE が目標に掲げたのは、性能と、イテレーションの速さでした。作って、遊んで、直す。その1周をどれだけ短くできるかという話です。

2017年の Game Creators Conference で、カプコンの石田智史氏が仕組みを説明しています。ゲームのロジックはすべて C# で書き、実行したまま差し替えられるようにしました。素材データも同じで、動かしたまま入れ替えられます。直すたびに立ち上げ直す必要がありません。

数字も出ています。『バイオハザード7』の開発では、全部を作り直すビルドが約10秒で終わったとされています。C# のコードは約28万行、素材の総数は約15万という規模でした。

速く直せると何が変わるか。同じ資料には、開発の終盤まで何度もレベル調整を繰り返せたと書かれています。締め切りが近づいてから「ここが気持ちよくない」と気づいたとき、直せるか諦めるかが分かれます。完成した作品の手触りは、その回数の差から出てくるものだと思います。

もうひとつは、社内での使い回しです。ゲームメーカーズに載った開発者の座談会では、エンジン側を C++、タイトル側を C# に分け、タイトルごとの独自改造をしない方針が説明されています。過去に独自実装が原因不明のクラッシュを招いた経験からだそうです。全社が同じ道具を使えば素材を作品間で共有でき、人が別のチームへ移っても環境を覚え直す手間が減ります。

同じ道具から、これだけ出た

『バイオハザード7』のあとに続いた顔ぶれを、発売順に挙げてみます。『デビル メイ クライ5』と『バイオハザード RE:2』が2019年。『RE:3』が2020年で、『ヴィレッジ』と『モンスターハンターライズ』が2021年です。

そこから『ストリートファイター6』と『RE:4』が2023年。『ドラゴンズドグマ2』が2024年、『モンスターハンターワイルズ』が2025年と続きます。今年出た『鬼武者 Way of the Sword』も RE ENGINE です。

『鬼武者』の開発者は4Gamerの取材で、エンジンの環境が整ってきたことを制作の後押しに挙げていました。土台がそろっていれば、作りたいものに手を出しやすくなります。

ホラー、アクション、ハンティング、対戦格闘、オープンワールド。手触りがまるで違うものが、同じ土台から出ています。

数字も並べておきます。カプコンが公開しているミリオンセールスタイトルの値です。2026年6月30日時点で、『バイオハザード7』が1840万本、『RE:2』が1970万本。『RE:4』が1600万本、『ヴィレッジ』が1580万本です。

『モンスターハンターライズ』が1930万本、『ワイルズ』が1180万本。『ストリートファイター6』が720万本、『ドラゴンズドグマ2』が420万本です。1000万本超がいくつも並ぶ状態が、9年続いています。

『ワールド』は RE ENGINE ではありません

ここでひとつ、混ざりやすい話があります。シリーズ最多の2240万本を売った『モンスターハンター:ワールド』は、RE ENGINE の作品ではありません。

CEDEC 2018 でカプコンが公開した最適化事例のスライドに、ベースエンジンは MT FRAMEWORK だと明記されています。現行機のスペックを活かすための最適化を重ねた版が使われました。

RE ENGINE がモンスターハンターに入ったのは、2021年の『ライズ』からです。シリーズの本数がどこで跳ねたのかは、販売本数を発売順にたどった記事にまとめています。

細かい話に見えますが、ここを間違えると話がずれます。RE ENGINE の実績に2240万本を足すと、エンジンの効果を実際より大きく見積もることになるからです。数字を並べるときは、何の数字かを先にそろえておきたいところです。

光の計算も、あとから足された

2026年の GDC で、カプコンは RE ENGINE にリアルタイムのパストレーシングを実装した事例を発表しました。直接光と間接光の処理をすべてパストレーシングに置き換えるもので、『バイオハザード レクイエム』と『PRAGMATA』で使われています。2人の開発者が約1年半でゼロから実装したと説明されています。

土台を作り直さずに、新しい表現をあとから足す。9年前に作ったエンジンの上で、光の計算だけが差し替わったことになります。

次の道具は、作り直しではない

カプコンは2023年10月の自社カンファレンスで、次世代版の開発を公表しました。コードネームは「REX」です。ゼロから新しいエンジンを作る話ではありません。いまの RE ENGINE に新しい技術を段階的に足していく方針だと説明されています。

理由に挙げられているのは、規模の膨張です。『バイオハザード7』の当時と比べ、直近のプロジェクトはアセット数もコード量も5倍以上になったといいます。作り直すより足していくほうが現実的だ、という判断でしょう。

投入の時期や対象の作品には、この講演では触れられていません。分かっているのは、道具を捨てずに育て続ける選び方をしたことだけです。

けん玉の見方

会社の数字も、この9年でずいぶん変わりました。2026年3月期は売上高が約1953億円、営業利益が約753億円。9期連続の最高益とされています。

ただ、エンジンを変えたから伸びた、とは書けません。カプコンの資料にその説明は載っていないからです。同じ時期に開発方針の見直しや発売機種の拡大も起きていて、原因をひとつに絞れる材料はありません。

それでも、部品を組み合わせる設計にしたという話と、ジャンルの違う作品が短い間隔で出続けている事実は符合します。ひとつのチームが作った仕組みを別のチームが使えるなら、毎回ゼロから積み上げずに済みます。

遊んでいて面白いと思うのも、そこです。『モンスターハンターライズ』で翔蟲を撃って崖を駆け上がるときの、入力に引っかかりがない感じ。近い手応えが『ストリートファイター6』のドライブラッシュにもありました。

2017年に一度作り直した会社が、次は作り直さないと決めた。この判断のほうが、RE ENGINE の9年をよく表している気がします。

答え合わせは、REX を使った最初の作品が発表されたときに付きます。足していく選び方が効いているなら、新作の間隔は毎年1〜2本という今のペースから落ちないはずです。逆に間があくようなら、規模の膨張のほうが勝ったということになります。

ひとつ願うとすれば、この道具がこれからの作品にも効いてほしい、ということです。『バイオハザード レクイエム』も『PRAGMATA』も、同じエンジンの上に立っています。速く直せる土台があるなら、最後まで粘って詰めた作品が出てくるはずです。9年の積み重ねの先に、また名作と呼ばれるものが並ぶことを期待しています。

※ カプコンの直近決算の数値は一次情報を確認しきれていないため、誤りがあればお問い合わせからお知らせください。

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